村上龍、金融経済の専門家に聞く ※当ホームページでは、毎月第二水曜日に前月配信されたバックナンバーを追加掲載しています。
村上龍からの質問
Q.118
配信日:2000年07月17日
みなさんは沖縄サミットにどういう期待を持たれているのでしょうか?
寄稿家: 石澤靖治 の回答
学習院女子大学教授
近著に『戦争とマスメディア』(ミネルヴァ書房)
前回の日本でのサミットを覚えているだろうか。93年の東京サミットは熱かった。
バブルが崩壊した日本だったが、その経済力は世界からまだ脅威として見られていた
し、アメリカではその年の1月、日本経済に対する明確な戦略を掲げたビル・クリン
トンが大統領の座につき、日本への敵対的な姿勢をむきだしにしていた。そしてサ
ミットで来日したクリントンは、宮沢首相率いる自民党に対して、改めてそうした態
度を示す一方、日本新党などにはラブコールを送った。

そうしたクリントンの姿勢に危機感をいだいた政府・自民党は、なんとかクリントン
との友好的な関係を演出しようと、ホテル・オークラの寿司屋「久兵衛」で宮沢首相
との個別会談を必死にセットした。

 このように、良くも悪くも世界中に「日本問題」を意識させるような迫力は、日本
にはもはやない。また日本で「サミット」と呼ばれている先進国首脳会議は、その他
の国々では「エコノミック・サミット」であり、経済先進国の集まりにすぎない。
他にもいろいろなサミットがあるし、日本のように大騒ぎするものでもない。それに
加えてサミットの議題や発表される共同声明の内容の概要はすでに数カ月前から決
まっており、最終的な文言がサミットの場で多少変えられるにすぎないことは周知に
事実だ。

その意味でサミットは見事なくらいお祭りである。日本の存在感の薄さに加えて本来
からあった強い儀式性を考えると、サミットに多くを期待するほうが無理だというこ
とになる。

 しかしそれでも、今回のサミットから何らかの可能性を考えることはできないだろ
うか。それは現在、何も売り物がない日本が、どうにか目玉を作ろうと沖縄でサミッ
トを行おうと決めたことだと思う。

その理由の一つは沖縄の在日米軍問題についてアメリカはじめ各国の認識を高めても
らうことだが、沖縄でサミットを行うことで、地政学的な意味からも「アジアの中の
日本」というものを内外に強く位置づけることになるのは確かである。私はアメリカ
とのこれまでの関係を維持しながら、日本はアジアにおいて積極的な役割を果たすべ
きだと考えている。そこでこのサミットを、日本がアジアで主要な役割を果たすよう
にするための、大きなステップとすべきだと思う。

 「アジアの中の日本」ということは、これまで何度も言われてきたが、何の進展も
なかった。しかし97年に勃発したアジア経済危機以降、クリントン政権とIMFの対応
への反発から、アジア諸国と日本は急速に接近を深めている。アジア通貨基金創設の
ムードはまさにその象徴である。私はこうした状況を踏まえて、ドイツがユーロがス
タートする前に、欧州諸国の中心的な通貨(ビークル・カレンシー)になるよう努力
をしたことを思い出すべきだと思う。

日本がアジアの基軸通貨になるためには、アジア諸国との真の友好関係を確立する必
要があるのと同時に、日本の資本市場が使い勝手のいい、透明性の高いものでなくて
はならない。つまり日本がアジアに対して積極的な役割を示そうとすることで、いっ
こうに改革が進まない日本国内の改革につながる。今回のサミットに関連づけて日本
を考えた場合、その辺から突破口を見つけていくしかないのではないだろうか。